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EU離脱

 

EU離脱 (ちくま新書)

EU離脱 (ちくま新書)

  • 作者:鶴岡 路人
  • 発売日: 2020/02/06
  • メディア: 新書
 

どんな本?

EU政治の研究者による、信頼できる分析・評論集です。

きっかけ

2016年の国民投票の結果、イギリスはEUを離脱することになりました。いわゆるブレグジットです。仮にも学生時代にEUやヨーロッパ政治を対象とするゼミに学んだ者として、この結果には心底驚きましたし、これからEUはどうなってしまうのかと不安ですらありました。

そんなときに頼りになるのが書籍です。しかし、いわゆるブレグジット本を手に取るのは気が引けました。なぜなら、それらの本を通じてブレグジットの空気を感じることはできても、ブレグジットの本質には辿り着けない気がしたからです。私は、EU政治研究者による、本格的ながらわかりやすく書かれた本を探していたのです。

そうしている間に、イギリスはブレグジットを迎えてしまいました。そこで改めて何か良い本がないかと検索したところ、発見したのが本書です。ちくま新書慶應義塾大学という2点を信頼して購入しました。

著者は?

メモ

  • 離脱は必然ではなかった
  • イギリスのEU離脱はイギリス/EUどちらの利益にもならない
  • EU離脱とは、リスボン条約の締約国をやめること。しかし、100とゼロの間には無数の選択肢がある
  • 混迷の要因
  1. EUから抜けることは簡単だという誤解
  2. 目標のコンセンサスがなかった
  3. レッドライン(絶対的条件)に無理があった
  • 加えて、EUの利益を守るためにEU27ヶ国が結束を維持し、イギリスだけに例外を認めなかった
  • 離脱ドミノが起きなかった理由は、イギリス政治・社会の混乱が離脱の魅力を失わせたから
  • イギリスはEUを離脱することで主権を取り戻すはずだった。しかし、実際にはEU離脱によってさらに主権や影響力を失う。さらには、連合王国としての存続自体が危機にさらされている
  • ルールメーカーからルールテーカーへの転落
  • 最大の問題は、北アイルランド国境問題
  • ブレグジットが長引くことにより、北アイルランドの離脱感情が高まる。もしそうなれば、武力闘争の再燃、さらにはスコットランドの独立問題も。
  • 政治が結論を出せない困難な問題を国民の判断に委ねることは、政治の責任放棄。
  • 残留を決定すればブレグジットが全て解決すると考えるのは幻想。
  • たとえ離脱が撤回されたとしても、「離脱派」がいなくなるわけではない。
  • EUにとって、いつまた離脱を表明するかわからないような加盟国を抱えることは、EUの結束にとって問題。
  • ブリュッセルや独仏に物言う「頼れる兄貴分」として、イギリスはEU各国から信頼されていた。
  • イギリスが抜けると、EU内のパワーバランスが変化する。中小国がいかに利益を守れるか。ユーロ非参加国が影響力を持てるか。
  • EUが最も影響を受ける分野は、外交。EUにとっては、イギリスが持つネットワーク、知見、経験が失われる。一方イギリスも、EU加盟国という強みを失う。

感想

  • ルールやデータに基づく精緻な議論がなされないまま、「なんとなく」で離脱が残留を上回ってしまったのがブレグジットだった、と理解しました。
  • かつて日本で民主党政権が誕生した時にも似ているように感じるのは、どちらもポピュリズムが高揚した結果だからでしょうか。
  • しかし、国民がもう一度元に戻したいと判断した時のコストの差は、比べるまでもありません。
  • 将来、EU再加盟があるのか、そうなった時にどのような手続きが必要なのか、人々が得る教訓は何か、といった想像が膨らみます。