どんな本?
EU政治の研究者による、信頼できる分析・評論集です。
きっかけ
2016年の国民投票の結果、イギリスはEUを離脱することになりました。いわゆるブレグジットです。仮にも学生時代にEUやヨーロッパ政治を対象とするゼミに学んだ者として、この結果には心底驚きましたし、これからEUはどうなってしまうのかと不安ですらありました。
そんなときに頼りになるのが書籍です。しかし、いわゆるブレグジット本を手に取るのは気が引けました。なぜなら、それらの本を通じてブレグジットの空気を感じることはできても、ブレグジットの本質には辿り着けない気がしたからです。私は、EU政治研究者による、本格的ながらわかりやすく書かれた本を探していたのです。
そうしている間に、イギリスはブレグジットを迎えてしまいました。そこで改めて何か良い本がないかと検索したところ、発見したのが本書です。ちくま新書と慶應義塾大学という2点を信頼して購入しました。
著者は?
- 鶴岡路人
- 1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業(1998年)後、同大学大学院法学研究科修士課程、米ジョージタウン大学大学院留学(慶應義塾派遣交換留学)を経て、英ロンドン大学キングス・カレッジで博士号(PhD)取得。現在、慶應義塾大学総合政策学部准教授。
メモ
- EUから抜けることは簡単だという誤解
- 目標のコンセンサスがなかった
- レッドライン(絶対的条件)に無理があった
- 加えて、EUの利益を守るためにEU27ヶ国が結束を維持し、イギリスだけに例外を認めなかった
- 離脱ドミノが起きなかった理由は、イギリス政治・社会の混乱が離脱の魅力を失わせたから
- イギリスはEUを離脱することで主権を取り戻すはずだった。しかし、実際にはEU離脱によってさらに主権や影響力を失う。さらには、連合王国としての存続自体が危機にさらされている
- ルールメーカーからルールテーカーへの転落
- 最大の問題は、北アイルランド国境問題
- ブレグジットが長引くことにより、北アイルランドの離脱感情が高まる。もしそうなれば、武力闘争の再燃、さらにはスコットランドの独立問題も。
- 政治が結論を出せない困難な問題を国民の判断に委ねることは、政治の責任放棄。
- 残留を決定すればブレグジットが全て解決すると考えるのは幻想。
- たとえ離脱が撤回されたとしても、「離脱派」がいなくなるわけではない。
- EUにとって、いつまた離脱を表明するかわからないような加盟国を抱えることは、EUの結束にとって問題。
- ブリュッセルや独仏に物言う「頼れる兄貴分」として、イギリスはEU各国から信頼されていた。
- イギリスが抜けると、EU内のパワーバランスが変化する。中小国がいかに利益を守れるか。ユーロ非参加国が影響力を持てるか。
- EUが最も影響を受ける分野は、外交。EUにとっては、イギリスが持つネットワーク、知見、経験が失われる。一方イギリスも、EU加盟国という強みを失う。