きっかけ
私は歴史、特に世界史が好きです。高校時代の愛読書は「山川世界史B用語集」でした。愛読しすぎて背表紙が分離し、それでもテープでくっつけて使い倒したのは良い思い出です。
ところで、高校で習う世界史はいわゆる政治史・経済史が中心です。そこで私が時々ふと思ったのは、
「ふつうの人はどんな暮らしをしていたんだろう?」
ということでした。教科書や用語集を見ても、「○○の圧政により庶民が苦しんだ」とか「△△文化が花開いた」と記述されている程度。庶民目線での生活の様子、例えば家族は何人くらいで、日々何を食べ、日中何をして過ごしていた、といったことがずっと疑問でした。
そこで最初に出会ったのが、『茶の世界史』でした。
高校時代の英語の先生が、なぜか英語の授業の冒頭にこの本を紹介してくれました。高校の図書室にあるから、よかったら読んでみてくださいと言うのです。図書室へ自ら足を運ぶなど小学校以来で、私は図書室の場所さえも定かではありませんでしたが、ともかく行って借りて読んでみるとこれがまあ面白い。世界史は為政者を中心に語られるものだという思い込みのあった私は、お茶で世界史を語ることができることに、ガーンと衝撃を受けたのでした。
本書は、『茶の世界史』の著者である京大の角山榮教授と、その弟子にあたる川北稔氏によるものです。最初に読んだのは大学に在学中のことで、やはり大学図書館で借りて読んだような気がするのですが、定かではありません。ただ、とにかく面白かったという記憶はありました。数年前に、もう一度読んでみたいと思い、確かそれほど安くはありませんでしたがAmazonマーケットプレイスで購入しました。
著者は?
- 川北稔
- 大阪大学名誉教授
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1940年大阪府生まれ。1967年京都大学大学院文学研究科西洋史学専攻博士課程中退。1967年大阪大学文学部助手などを経て、1987年から大阪大学文学部教授。2004年に同大学を定年退職ののち、名古屋外国語大学教授、国際高等研究所副所長、京都産業大学文化学部客員教授、佛教大学歴史学部歴史学科特別任用教授を歴任。
どんな本?
イギリス産業革命に光と影があるとすれば、影の部分にスポットライトを当てた研究です。当時の人々が、いかに劣悪な環境で寝起きし、身体に悪いものを飲食していたか、なぜそうなってしまったのか、それを受けてどんな制度が作られたかが、具体的な記述で描写されます。中学や高校の歴史の教科書では取り上げられなかった社会の暗部。私は、当時の最先進国がこのような状況であったことに改めてショックを受けました。
この本の特に優れているのは、当時の版画がことごとく的確に挿入されている点です。客観的で読みやすい文章と相まって、まるで記録映画を見ているかのような迫力を感じます。
私はこの本を通じて、歴史の中に社会史や生活史というカテゴリがあることを知り、視界が開けました。川北稔氏の著作は他にも『砂糖の世界史』(岩波ジュニア新書)など多数ありますが、内容の面白さや新鮮さの点で、この『路地裏の大英帝国』が最高峰だと思っています。