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改憲的護憲論

 

改憲的護憲論 (集英社新書)

改憲的護憲論 (集英社新書)

  • 作者:松竹 伸幸
  • 発売日: 2017/12/15
  • メディア: 新書
 

 きっかけ

Amazonの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」の中に出てきました。しかし、「改憲的護憲」という言葉の意味がわかりません。そもそも、改憲、護憲という言葉自体もなじみがありません。いったいどういうことなのだろうと疑問に思いながらカスタマーレビューに目を通してみると、

バランスの取れた主張

一読するだけの価値がある

著者の姿勢に好感が持てる

といった評価が目に留まりました。

憲法論議というと、どうもきな臭いものになりがちです。改憲自民党、護憲=共産党、という二分法的な対立をイメージし、私はそういうものに対してつい鼻をつまんで距離を置きたくなります。しかし、そういうものでないのなら、自分の知見を広げるために読んでみたいと思いました。

感想

共産党って意外に現実的なところもあるんだな」というのが率直な感想です。というのも、私は共産党といえば理想主義的な人たちの集まりで、「そりゃそんな社会が実現すれば素晴らしいけどさ、まぁ無理でしょ実際」と懐疑的な眼差しで見ていたからです。

私は、自分が兵士として戦いたくはないし、他国から侵略を受けることもまっぴらごめんです。したがって、自分が兵士として戦ったり、侵略を受けて殺されたりしなくても済むよう、日本の防衛に最低限必要な戦力は保有し、いざというときにその人たちに守ってもらいたいなぁと思います。これを国家レベルで考えると、専守防衛となるのでしょうか。国際社会では、いつどんなことが起きるかわかりませんから、最低限の守りは必要だと思います。ちなみに、本書でも登場する自衛隊の海外派遣については、日本も世界平和に積極的に貢献すべきだという意見はもっともだし、これまでの実績も大変すばらしいものだとは思いますが、自分が行くわけじゃなし、率直に言ってしまうと「やってもやらなくても、どっちでもいい」というスタンスかな。

話を戻すと、専守防衛に徹するのはやはり難しいのではないかなと思います。なぜなら、安全保障のジレンマ(一国による安全を確保するための行動が、他国には攻撃を企図した行動と受け取られ、相互に対抗措置を呼び起こす結果、双方の安全が却って低下すること)が生じるのは避けられないからです。日本の侵略の意図がないと安心してもらうためには、どうしたらいいのでしょうか。やっぱり、日ごろの行いの積み重ねなのかなぁ。国際関係や外交を人間同士の付き合いに置き換えて考えようとする時点で、考えが浅いでしょうか…。

安全保障や防衛は、自分の生存にかかわる身近なテーマです。しかし、自分一人ではどうにもならない遠大なものでもあります。本書を読みながら、安全保障を学び、自分事として考えることの大切さと難しさを再認識しました。

なるほどと思った箇所

  • 改憲か護憲かを議論する際には、改憲派を敵だと見なすのではなく、共感をベースにして話し合うべきだ
  • 護憲派改憲派に対して、「改憲したら海外で戦争する国になるぞ」という批判が寄せられます。逆に改憲派護憲派を、「武力を否定するのはお花畑だ」と揶揄します。しかし、そんなことを考えている人は、改憲派にも護憲派にもほとんどいない
  • 国民の支持が自衛官の誇りを支える最大の要素であることを考えるとき、自衛隊憲法に明記しないことも選択肢
  • 戦争と平和というのは、国語辞書的には対義語であっても、現実政治においてはそう単純な対立関係にあるわけではない
  • 日本の近現代における侵略は、すべて「自衛」の名のもとに開始された
  • 日本的な平和しか体験したことのない私たちは、苦痛を伴う平和という概念を想像もできません。平和という言葉を、一点の曇りもない、ピュアなものとしか捉えられません。
  • ベトナムの人びとは、戦争という手段に訴えてでも、独立と自由を獲得することを選んだ
  • 中国の愛国主義教育の問題点は(中略)日本をはじめ帝国主義による侵略を打ち破った、誇るべき戦争を遂行したという要素を強調するあまり、戦争と平和ということの全般が正確に教えられていないことです。とりわけ、戦争は忌むべきものだという、この問題では一番大切なことが欠落しているように見えることです。
  • テロを終わらせていくためには、どこかで紛争当事者の和解が必要。日本は紛争当事者になったことがないという立ち位置を活かして、和解のために真剣な努力をすべき。きわめて危険な仕事ではあるが、世界平和に積極的に貢献でき、非武装の人間がすることなので憲法で禁止された武力行使に至る可能性は皆無である。
  • 2016年の参議院選挙で共産党が発行した法定ビラには、「国民の命を守るために自衛隊に活動してもらう」と明記している。共産党にとっては跳躍と言えるほどの見解の変化である。

メモ

  • 自衛隊違憲だから廃止せよというのが従来の護憲派だったはずなのですが、そういう護憲派はほとんどいない
  • 国民の8割前後は、自衛隊の存在意義を災害派遣専守防衛の双方から認めている
  • 憲法上、海外での武力行使が禁止されているため、部隊として武力の行使はできない建前なので、自衛官個人による武器の使用だと規定され、責任も自衛官個人が負う仕組みになっています
  • ミサイルやバズーカ砲などで武装した相手に対して、相手が武器を持っていないという建前の警察官職務執行法で対応するのですから、自衛官の生命の危険は格段に増大しています
  • 武器を使って相手を倒すのは、正当防衛・緊急避難に該当するときだけに限られているため、自衛官の危険度はさらに増した
  • 「敵を倒す」行為は、日本による交戦権の行使ではなく、個々人による武器使用だとされるため、自衛官には国際的な交戦法規が適用されず、捕虜にもなれない
  • 誤って民間人を殺傷した場合、自衛官個人の刑事責任が問われることになる。しかも、その自衛官を裁くのは軍事法廷ではなく、軍事問題の知識も経験もない一般の裁判所
  • 「いかなる領土取得」も武力によるものは禁止されているというのが、現在における国際法の原則
  • 「なぜ国際紛争は劇的に減少したのか」(人間の安全保障報告2009/2010)①国連憲章のもとで戦争が禁止されたこと、②植民地主義と冷戦が終わり、国際社会の緊張要因が取り除かれたこと、③国際的な経済関係が密になり、戦争で奪うより貿易で手に入れるほうが安上がりになったこと
  • 日本が侵略された場合に、共産党「侵略者に屈服せず、可能なあらゆる手段を動員してたたかう(=中立自衛)」と主張した。一方、社会党「軍事力によらない、種々の抵抗を試みる(=非武装中立)」と主張した。
  • 自衛隊について、共産党自衛隊は軍隊なので憲法に違反する。したがって、自衛隊を解消する必要がある。しかし、自衛隊の解消が現実となるまでの過渡期には自衛隊を活用する」(2000年の全国大会)との立場をとった。また、海上保安庁の不審船捕獲能力を高める立場から、海上保安庁法改正案に賛成した(2001年)。
  • 「9条と自衛隊の共存」、より正確に言えば「9条と専守防衛自衛隊の共存」が国民世論の現状
  • 2015年の朝日新聞による憲法学者122人への調査では、違憲論が3分の2を割り込んだ。一方、それまで10分の1に過ぎなかった合憲論が3分の1にまで達した。
  • 自衛隊イラク派兵差止訴訟において、名古屋高裁は判決で次のように説明した。

例えば、憲法9条に違反する国の行為、すなわち戦争の遂行、武力の行使等や、戦争の準備行為等によって、個人の生命、自由が侵害され又は侵害の危機にさらされ、あるいは、現実的な戦争等による被害や恐怖にさらされるような場合、また、憲法9条に違反する戦争の遂行等への加担・協力を強制されるような場合には、平和的生存権の主として自由権的な態様の表れとして、裁判所に対し当該違憲行為の差止請求や損害賠償請求等の方法により救済を求めることができる場合がある

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