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二〇世紀の歴史

 

二〇世紀の歴史 (岩波新書)

二〇世紀の歴史 (岩波新書)

  • 作者:木畑 洋一
  • 発売日: 2014/09/20
  • メディア: 新書
 

 きっかけ

ここ最近、いくつかの歴史本を読んできました。が、当たり外れが大きかったのには少々戸惑っています。そんな中で、久しぶりに近現代史も読みたくなり、Amazonマーケットプレイスで手に入れました。

著者は?

どんな本?

  • 帝国主義をキーワードに、1870年代から1990年代初頭に至る時代を「長い20世紀」として概観します。
  • 終章の最後に、著者は「長い20世紀」を以下のように総括しています。
  • 人と人とが差別されて、支配と被支配の関係が世界を覆い、その構造の下で2つの世界大戦を頂点として暴力が偏在していた時代 

  • 各章の最後で、「定点観測地域」としてアイルランド南アフリカ、沖縄の様相を取り上げているのが特徴です。
  • 「あとがき」で著者は、私たちは帝国世界から抜け出したが、帝国や帝国主義では表現できない時代をいま生きていると述べています。

感想

  • 学校教科書を読んでいるようで、最初は退屈でした。「欧米列強+日本が帝国主義のもとにアフリカやアジアを植民地化し、現地の人々を苦しめました。第二次世界大戦後に脱植民地化が進み、多くの国民国家が誕生しました。しかし、今も旧植民地の人々は政治的・経済的に低い立場にあります。」というストーリーは学校教育で散々聞かされたので、もうお腹いっぱいです。
  • 世界を支配する側と支配される側の2つに分け、支配する側の非と、支配される側の悲劇や抵抗を強調するあたりは、いかにも岩波書店という感じです。挿絵や写真も、支配される側への同情を誘うようなものが選ばれており、著者の意図を感じないではおれません。
  • 本書を一読した私は、『二〇世紀の歴史』と銘打った新書でありながら、帝国主義の視点だけで歴史を記述するのは、あまりに偏りがひどすぎると感じました。書名を『帝国主義の歴史―長い20世紀―』とでもすべき、とさえ思いました。
  • しかし、なんでこんな本を買ってしまったんだろうと後悔しながらAmazonのレビューを改めて読んでみると、本書が評価されるべき点が記されていました。そこで私は「何か得られるものがないか」と心を落ち着けて本書を再読しました。すると、下記のメモに列挙したような目からウロコの発見がありました。早とちりと誤解によって本書を危うく無駄にしてしまうところでした。
  • 20世紀の歴史について、私は欧米および日本視点での理解しかありませんでした。しかし、本書によって、支配される側≒発展途上国視点での理解もわずかながら持てるようになりました。このような経験ができたことはとても貴重です。

メモ

  • 18世紀後半のアフリカは、「暗黒大陸」という表現に示されるような停滞した地域ではなく、変化と変革の空気のなかにあった。
  • 20世紀はじめ、ドイツはドイツ領南西アフリカにおいてヘレロ人・ナマ人を虐殺した。これはジェノサイドの先駆けとされる。
  • 第一次世界大戦中、ドイツ領東アフリカでの戦闘は極めて過酷で、あるイギリス兵は「西部戦線では紳士のように生きて人間らしく死んでいく。こちらでは豚のように生きて犬のように死んでいく」と述べた。
  • ガンディーは、イギリス帝国への戦争協力姿勢を強く推進した。しかし、多くのインド人の犠牲を出しながら、インドの地位の変化には結びつかなかった。
  • 第一次世界大戦中、宗主国に対する反乱がみられた。それは帝国支配を揺るがすには至らなかったが、民族自決という観念が広く認識されることに繋がった。
  • 第一次世界大戦の戦後処理にあたり、植民地は国際連盟が介在する国際的統治という建前をとらざるを得なかった。このことの歴史的意味を過小評価すべきでない。
  • ナチス・ドイツは、黒人に対しても強い蔑視観を持っていた。
  •  第二次世界大戦中、多くのアフリカの人々が戦線で戦ったが、実戦で戦うことには白人の強い抵抗感があり、多くは雑役や運転手として用いられた。
  • インドとパキスタンの国境線は、わずか1ヶ月あまりの間に、現地経験のない法律家を責任者とした委員会で決められた。
  • 脱植民地化の過程では、支配する側による拷問や虐殺、独立後の内戦で多くの死者が出た。また、権威主義的な政治体制、政治的腐敗の蔓延、単一産品への依存、経済戦略と優れたリーダーシップの欠如などに逢着した。
  • 旧支配国がそれまでの経済的支配の実質的な継続を目論むことを「新植民地主義ネオコロニアリズム)」という。これは、新国家の指導者たちが主権を獲得しながらそれを有効に行使し得なかった責任回避の言説ともなった。
  • アンゴラでは、植民地保持に固執したポルトガルの姿勢と、冷戦下の国際対立とによって、脱植民地化の過程が大きく歪められ、内戦の終結は2002年を待たなければならなかった。
  • インドは、イギリス国王への忠誠を拒み、共和国としてでなければ英連邦に残らないという姿勢を示した。イギリス政府は、共和国としてインドの加盟を認めるとともに、それまでの英連邦から「英」を取り払い、単に連邦(コモンウェルス)と呼ばれることとなった。
  • 1970年に発足したフランコフォニー(フランス語圏)は、帝国解体後も影響力の維持を望むフランスの思惑と、独立後にフランス語を軸としての国際的な協力の場を求めた旧植民地の志向性が合致したところで生まれたと見るべきである。
  • 第三世界」という表現は、フランス革命の原動力となった「第三身分」になぞらえて、1955年のバンドン会議の頃にフランスの知識人の間で生み出された。