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〈中東〉の考え方

 

<中東>の考え方 (講談社現代新書)

<中東>の考え方 (講談社現代新書)

  • 作者:酒井 啓子
  • 発売日: 2010/05/19
  • メディア: 新書
 

きっかけ

ここのところ、イスラーム地域についての本もちらほら気の向くままに読んでいます。しかし、なかなかスピードを上げて読むことができず、わからないところは読み飛ばしたりもしてしまいます。基礎知識がないからです。良くないなぁ、できればなんとかしたいなぁ、と思いながら問題解決を後回しにし続けて、今に至ります。

本書は、段ボール箱に入ったまま数年間、眠っていました。タイトルを見ても、中身が全く思い出せません。これは再読の価値がありそうだと思い、読み始めました。

著者は?

どんな本?

本書の目的は、序章で下記の通り明らかにされています。

  1. 「中東」という地域が抱えている問題を明らかにすること
  2. その原因を近現代の国際政治のなかに位置づけること
  3. 中東の指導者たちの巧みな処世術を解明すること
  4. 中東の市井の人々が感じ、目指すものを考察すること

そのために、著者が用意した「魔法の絨毯」で、200年という時間と、北アフリカからイランまでを駆けめぐる、と書いています。

感想

  • 新書でも丁寧に読むと、こんなにも学ぶことがあるのだなぁ。私はこれまで、好きなところだけつまみ食いをしていたのだとつくづく気付かされました。わかるところだけ読んで、わからないところは読み飛ばす。これでは、せっかく本を読んでも新たな知識を得られません。そのことに気付けたのが今回の最高の収穫でした。
  • 特に印象的だったのは、以下の点です。
  1. 中東諸国が大国に翻弄されるばかりではなく、逆に大国を巧みに利用して生き延びてきたこと
  2. イスラエル人がすべてユダヤ教徒ではなく、アラブ人が2割もいること。
  3. ひと口にイスラーム主義やイスラーム運動といっても、中身はさまざまで、全てが暴力に訴えるものでは決してない。
  • 最近読んだどの本にも「国民国家」がキーワードとして登場するのですが、本書でもシオニズム思想のところなどで「国民国家」が何度も登場し、またかよ!と苦笑いしました。でも、それだけ国民国家」が近現代史を語る上で欠かすことのできない概念であることの証左でもあります。
  • これまで私は「国民国家」をどちらかといえば良いもの、ポジティブな存在として捉えていました。しかし、西欧とは異なる地域の歴史を覗くと、それが与えたネガティブな影響を知ることとなります。その結果、私は「国民国家」に対する評価を改めつつあります。

メモ

第1章

第2章

第3章

第4章

  • 1979年のイラン革命は、シャーの専制政治に対して人々が民主化を求めたことから始まった。ホメイニーが指導する革命政権は、希望と熱狂をもって大歓迎された。
  • シャーとアメリカが反発の対象となる理由は、イラン内政への過度な干渉に加えて、アメリカ文化がイラン社会を汚染しているという認識、アメリカにイランの価値を認めてほしいと願う心情もある。
  • イランは、人口ではエジプト、トルコに続いて3位、面積はサウジアラビアに次いで2位、世界第2位ないし3位の石油埋蔵量を誇る。何より、歴代のペルシア王朝が栄え、シルクロード西方の文化的中心であり続けた。このことから、イラン国民には大国としての誇りや自負がある。
  • アフマディネジャドは、特権的地位にある政敵を追い落とし、対外的には断固とした姿勢で臨む、ポピュリスト政治家である。
  • 民主化が進むとイスラーム主義が強まるのはなぜか。その答えは、民族主義がその役割を果たさなくなったからである。ヒズブッラーはイスラーム主義を掲げる非政府組織、ハマースは「イスラーム抵抗運動」のアラビア語の頭文字をとって設立された組織である。ヒズブッラーもハマースも、民衆への社会慈善活動を通じて支持を得た。
  • イスラーム主義は、穏健から過激、保守から革新までさまざまである。

終章

  • いま、イスラーム的な生き方を選ぶ人々の間では、イスラーム的な生き方とは何か、という問いに対して、さまざまな答えや解釈が模索されている。しかし、そうした人々の声は政治に反映されない。代わりに、イスラーム運動やネットのヴァーチャルな共同体に向かう。中東地域はいままさに「グローカル」を経験している。