きっかけ
何のついでだったか、2021年5月に新潮文庫から筒井康隆の『世界はゴ冗談』という作品が刊行されていることを知りました。
15年ほど前、筒井康隆にハマって、あれこれと手を出してみた私。しかし、ハチャメチャ過ぎるドタバタ物、あるいは難解な純文学に私の粗末な脳がついて行けず、読了できたのは七瀬シリーズと富豪刑事、文学部唯野教授くらいなもの。大量の本が未読のまま、段ボール箱で熟睡していました。
それらの中から、「最初は短編集が読みやすいだろう」と読み始めたのが本書です。
感想
急流
ドラえもんをもっとおかしくしたような展開がコミカルだが、そこまでぶっ飛んじゃうのと私をハラハラさせるのがツツイ流。オチも秀逸。
問題外科
エロ・グロを煮詰めたような、これまた筒井康隆らしさ全開だが、後半に登場する病理部長はやることなすこと全部が異常過ぎて笑えなかった。これもまたツツイ流か。
最後の喫煙者
喫煙者に対する社会の異常な圧力は、コロナ禍におけるNOマスクに対するそれ、あるいは一部の過激なフェミニストによる個人叩きを思い起こさせる。21世紀に通じる皮肉である。
老境のターザン
一般人を次々と罠にはめていく様は、まるで犯罪を傍観しているかのようで愉快痛快。若き日のターザンの畳み掛けるような色情狂ぶりも凄まじい。
こぶ天才
毒親への風刺と、天才の悲哀を描いたものと私は理解した。この小作品が書かれた1970年代後半は、受験戦争が激化しようかという時期だったか。「勉強だけが全てじゃない」と多様な生き方をもてはやしながら、一方では東大東大と囃し立てる2020年代初頭の現在にも刺さる。ただ、最後のオチは意味がわからなかった。
喪失の日
程度の差こそあれ、自分もその日はこんな感じだったのかも、と生温かい気持ちになった。主人公の周りの人々がみな良い人たちでホッとした。いつ殺されるかとヒヤヒヤしたので笑
平行世界
パラレルワールドというと、2つの世界を想像するところ、これが筒井康隆の手に掛かると、250以上の世界が入り乱れる。ちょっとしたカオスである。ただ、その発想は非日常ながら、何が面白いのかはよくわからなかった。
万延元年のラグビー
桜田門外の変で殺された井伊直弼の首が、ラグビーボールの如く蹴飛ばされる憂き目に遭っていた、というドタバタ物。中盤までは歴史小説のように締まった趣きある空気だったのが、チームというカタカナが出てきたところから徐々に狂っていく様子が可笑しい。
メモ
- かりかりかり、と、女性の眉が吊り上がった
- 怒りに満ちあふれて彼女は自誌他誌を問わずおれの悪口、ひいては喫煙者全般にわたる悪口を書き散らした。
- 惻隠の情
- 近ごろの新聞が面白くないのも編集室がクリーンになったせいであろう。
- 付和雷同