きっかけ
その程度の認識しかなかった私がこの本に興味を持った理由は、①我那覇和樹のドーピング問題を描いた『争うは本意ならねど』の著者、木村元彦の本を以前から渇望していたこと、②FC岐阜の内紛に触れているらしいこと、の2つです。
著者は?
どんな本?
「サッカー選手である前に、良き社会人であれ」
森保一、風間八宏、高木琢也、小林伸二、上野展裕、片野坂知宏……。多くの名将を育てた「育将」今西和男。広島に生まれ育ち、被爆の後遺症を克服して代表入り、さらに「元祖ゼネラルマネージャー」としてマツダ/サンフレッチェ広島に携わり、日本サッカーにおける「育成」の礎を築いた男。彼の教えを受け指導者になった者たち、さらに彼らから教えられたプロ選手が日本中にいる。教え子たちから絶大なる信頼を寄せられながらも、今西はやがて志半ばで現場を去ることになる。その裏には何があったのか。
感想
- 読み始めたら一気、一日でほぼ全部読んでしまいました。この筆力、さすが木村元彦。
- 東京教育大サッカー部キャプテン、マツダの寮長、FC岐阜社長など、多様なエピソードから、今西さんの人柄が描かれます。
- その人物像はまるで聖人。今西さんが呆れるほど人の良い、面倒見の良い人格者であることが伝わってきました。
- とにかく懐が深く、面倒見が良すぎる。もし自分が今西さんの部下だったら、今西さんの優しさに甘えて、何でもかんでも助けてもらって楽をしてしまうだろうな。それくらいの器の大きな人です。
- 私は、組織においてどんな人が出世するのかについて、以前から興味がありました。押しの強い人?口の立つ人?厳しい仕事に耐えられる人?しかし、本書で描かれる今西さんの人物像から想像したのは、より多くの人の力となり、助けてあげられる人。そんな人がリーダーとして認められるのかもしれないと考えを改めました。
- JリーグがFC岐阜の人事に介入したくだり、私は岐阜市在住のサッカーファンでありながら、全然知りませんでした。なぜ知らなかったのか?本書が内実を伝えるまで、隠蔽されていたということ?
- クラブライセンス制度に対して、2013年頃の私は要件が財務的な基準に偏っていて、お金のない地方クラブに随分と厳しいしくみだな、でも財務基盤が弱いせいでクラブが消滅するのはサッカー界にとつてマイナスだからこれもやむを得ないか、くらいに思っていました。
- その陰で、今西さんが死ぬ思いで金策に奔走していたこと、にもかかわらず社長を最終的に解任されたことに衝撃を受けました。恩を仇で返すとはこのことか。
- 岐阜と大垣の経済的な対立、分断の深さにも驚きました。愛知県出身の私にとっては、十六も大共も地銀のひとつじゃんくらいの認識でした。私は岐阜市に住んではいるものの、愛知県の会社に勤める身分だから、そのあたりを肌で感じる機会が無いのでしょう。
- 2013シーズンだったか、岐阜対鳥取の試合が大垣市の浅中公園で開催されました。あれが、まさか岐阜経済にとって歴史的な一戦だったとは。
- 木村元彦氏の正義感が本から湯気となって立ち上るがごとく伝わってきました。
- しかし、本1冊でクラブライセンス事務局の巨悪を倒すには至らず。もどかしさ、やるせなさ、無力感が残ります。
- J3に落ちそうでなぜか落ちないFC岐阜でしたが、健闘むなしく2020シーズンはついにJ3へ。2021シーズンも引き続きJ3 ですが、首位に立つと次節必ず負ける落ち着きのなさです。
- とにかくFC岐阜の存続を願ってやみません。
- メモ