本・ゲ・旅

歴史や政治を中心に本の要約を紹介します。たまにゲームレビューも。

トランプ vs バイデン

 

感想

  • 読めば読むほど、村田先生の講義を思い出します。あの歯切れのよい調子をそのまま文字に落とし込んだかのようです。
  • はっとするような事実を列挙して、読者(聞き手)に考えさせるのが村田先生のテクニック。私はすっかり村田節にはまってしまいました。
  • 近年、つかみに映画を絡めるのが村田先生の手法のようですが、映画に疎い私にはピンとこない説明ばかりです。わかる人にはわかるのでしょうけれども、私からすると村田先生の手法は奏功しておらず、まわりくどいという印象です。

メモ

  • 久保文明は、トランプの行動原理を「3つのI」と要約している。「衝動」(impulse)、「無知」(ignorance)、「直感」(intuition)である。つまり、大統領に必須な自制心と経験と一貫性が欠如している。
  • 「分割政府」(大統領の所属政党と連邦議会の多数派が異なる事態)下では、大統領令の多様も常態化していた。レーガンは381回、ジョージ・W・ブッシュは291回、クリントンは364回、オバマは276回で、トランプは212回であった。
  • 1960年の大統領選挙で、ジョン・F・ケネディは実在しない米ソの「ミサイル・ギャップ」を喧伝して危機感を煽った。これなどは今日で言うところの「フェイク・ニュース」である。ウォーターゲート事件でのニクソン政権の対応などは、ほとんど「フェイク・ニュース」から成っていた。
  • トランプはバイデンの大統領就任式を欠席し、史上初めて2度目の弾劾裁判にかけられた(無罪)。
  • ジョージ・W・ブッシュ以降、軍歴を有する大統領は一人もいない。
  • バイデンは喘息の持病を理由に徴兵猶予を5回くりかえして、やはりベトナムに従軍しなかった。
  • トランプもアイビーリーグの一つ、ペンシルヴァニア大学の卒業生であり、大衆扇動的であっても、学歴的にはエリート層に属する。
  • 大統領として、彼の言動には特異なところが多かったが、こちらも実は歴代大統領の織り成す様々な系譜に連なっている。その意味で、トランプは大統領の「新種」ではなく「変異株」だったのである。
  • 21世紀になって、共和党民主党の正副大統領候補がすべてWASPであったことは、一度もない。
  • 民主党はかつて「大きな政府」を唱えて労働者の支持を集めていたが、今やマイノリティの利害を代弁し、高学歴層に支持されるようになっていた。対する共和党は、「小さな政府」を志向する富裕層を基盤としたが、民主党を離反した労働者層の取り込みに熱心になっていた。
  • レーガンベトナム戦争を肯定したのに対して、トランプはイラク戦争を否定した。
  • オバマはリベラルの側でマイノリティの自己主張という「パンドラの箱」を開けた。これに刺激された保守の側で、トランプは低所得の白人男性層を中心に、別の「忘れられた人々」の「パンドラの箱」を開けたのである。
  • 2060年になると、アメリカ社会の白人は44%とマイノリティ・マジョリティ(過半数を割ったマジ)に転落し、ラティーノは25%になる。
  •  
  • トランプ登場につながる5つの要因

 

  1. アイデンティティ・ポリティクス(文化的、社会的属性を軸にした政争)
  2. ステイタス・ポリティクス(これまでの地位や生活を維持できなくなるという人々の不安や怒りが、政治を突き動かしている)
  3. 情報のニッチ化(規制緩和によるメディアの多様化)
  4. 孤立主義
  5. 衰退論
  • トランプ政権は一貫して内政重視だったが、初期には外交面で予想以上に現実主義的な対応を示した。
  • コロナ感染症の拡大以降は、国内の対立が更に激化し、トランプ大統領の個人的資質が外交でも直截に影響した。
  • ヒラリーのように「嘆かわしい人々」を軽蔑せず、トランプのように「忘れられた人々」の怒りを利用せずに、彼らと希望を共有できるか否かが、バイデン政治の鍵となろう。
  • 過去10年ほどの間に、エリート層では軍事、政治、経済の順で対中警戒論が広がってきた。さらに、コロナ感染症パンデミックによって、一般世論のレベルでも対中不信が急速に拡大した。
  • バイデンは長い政治経験を持ち、非アイビーリーグ、非WASPであり、対立や怒りではなく妥協と中庸の人である。 ジャレド・ダイアモンドは、アメリカの恵まれた地理的環境と豊かな天然資源、人口増大などを指摘して、「中国やメキシコがアメリカを破壊することはできない。アメリカを破壊できるのはアメリカ人自身だけである。」と喝破している。
  • 「冷たい内戦」という議論は、今日のアメリカの政治的・社会的対立が、きわめて歴史的で思想的、かつ政治体制の根幹にかかわるものであることを示している。
  • 建国初期には地位と財産のある地元の有力者が大統領選挙人に選ばれた。いわば、ポピュリズムを回避する手段であった。
  • 小さな州が一定の政治的影響力を維持するには、勝者総取り方式のほうが好都合である。
  • 人口では民主党が勝ち、面積では共和党が勝つ。
  • 民主党がリベラルに傾斜してマイノリティを重視すればするほど、保守派の反発を招き、中間層の支持も失う。
  • アメリカは「不朽の自由」作戦を発動したが、2兆ドルと2448人の米軍人の命を費やし、アフガニスタンに安定も自由ももたらさなかったのである。
  • バイデン政権は米ロ間の戦略的安定を目指しながら、中国を「唯一の競争相手」と見なしている。他方で、中ロ両国は戦略的な協力関係を深めている。
  • 今や台湾は自由や民主主義の砦としての象徴的重要性を増している。
  • トランプは「戦略なきニクソン」であった。
  • ペレストロイカ」を図ったゴルバチョフ政権よりも、AIやICTを統治に活用する習近平体制は今のところはるかに強靭である。
  • バイデンが大統領再選をめざさない場合、ハリス副大統領は有力な後継者の一人となろうが、彼女こそ「アイデンティティ・ポリティクス」の体現者であり、保守派は集中攻撃するであろう。
  • 英仏は敗戦国ドイツを寛大に抱擁すべき時に拒絶し、侵略者ヒトラーを阻止すべき時に宥和して、戦争を呼び込んだ。
  • 中国は世界一の経済大国となる頃に、世界一の人口大国の地位を失う。
  • 豊かになる前に老いはじめる、中国人の恐れる「未富先老」が現実のものになりつつある。
  • アメリカ側では「冷たい内戦」収束の程度と時期、同盟諸国との関係強化、中国側では国内的な脆弱性と外交的失点、中国側では国内的な脆弱性と外交的失点――これらが米中関係の将来を大きく規定する変数である。