著者は?
- 高尾賢一郎
- 1978年三重県生まれ。
- 同志社大学大学院神学研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(神学)。在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、日本学術振興会特別研究員PD(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)などを経て、2019年4月より中東調査会研究員。
- 専門は宗教学ならびに現代イスラーム思想・社会史。
メモ
- イスラームという宗教はムハンマドに啓示を授ける以前から存在し、ムハンマドが開祖というわけではない。
- ヒジュラはただの敗走ではなく、イスラーム社会誕生のための輝かしい第一歩と位置づけられている。
- ムハンマド以降は預言者も使徒も存在しない。
- 人間生活のあらゆる面を包含するというイスラームの特殊性は、「近代化していない」という一点に集約可能に思われる。
- 現代世界にとってのイスラームの特殊性はイスラームに内在したものではなく、今日、普遍的といってもいいほどの地位を獲得した近代という価値基準によって生み出された。
- サウジアラビアは、「政教依存」すなわち政治権威は支配の正当性を宗教権威に求め、宗教権威は「正しいイスラーム」的社会を形成するための支配を政治権威に求める。
- ワッハーブ主義は可能な限り「正しいイスラーム」を実現する方法として、イスラームの黎明期を支えた始祖たちにならうことを訴えた。具体的には、彼らがイスラームの典拠とした無謬なもの、すなわちクルアーンとスンナのみを典拠とするよう呼びかけたのである。
- イブン・アブドルワッハーブはシャイフ家と呼ばれ、イスラーム指導者の名家として社会的影響力を持ち続けた。
- 「シャイフ」は宗教権威に対する尊称と認識されている。
- アラビア半島中部はイスラーム史にとって「後進地域」と呼べる場所である。ここはヨーロッパ諸国の植民地政策の版図外で、ヨーロッパの制度・慣習が流入しなかった。
- イスラーム世界の辺境に位置し、それゆえ人の往来も多くなかったサウジアラビアが、石油発見以降、国外から多くの人が集まる先進地域としての第一歩を踏み出した。
- 通常、多くの外国人が訪れ、生活を営むようになれば社会はコスモポリタン化する。そして、これを社会の風紀が乱れるとして、良しとしない議論が起こることも常である。
- 政府は、国家発展の代償とはいえ社会のイスラーム的風紀が乱れる事態を危惧し、シャイフ家を中心とした公式な宗教界の設立を進めた。
- ファトワーとはウラマーがイスラーム法学によって導き出した見解を指す。
- サウジアラビアが取り組んだのは、ファトワーの発布権限を職能集団としてのウラマーに限定し、「正しいイスラーム」を国内で統一する制度を確立することであった。
- 社会の主流となる「正しいイスラーム」的言説を形成する権限を、国王が任命した、政府に協力的なウラマーに占有させること。これこそが政府が目指した宗教界の近代化の核であった。
- 湾岸戦争は、サウジアラビアがイスラーム世界の盟主と米国の軍事同盟国という二つの立場をどう両立するのかが問われる出来事であった。