本・ゲ・旅

歴史や政治を中心に本の要約を紹介します。たまにゲームレビューも。

映画『ある閉ざされた雪の山荘で』


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30年前、私が初めて触れた東野圭吾作品の映画化。アマプラで視聴。

そういえばこんなあらすじだったなぁ、わりと原作に忠実だなぁ。

…以外の印象が出てこない。

原作はもっとドキドキハラハラした記憶がある。殺人は本物なの?それとも演技なの?特にクライマックスの”「私」を見た”を読んだときの「えっ、どういうこと!?」という驚きと「これから何が起きるの!?」という緊張感。当時小4の私は、「すげぇ…これが本物の推理小説か!」と興奮し、東野圭吾という作家が脳裏に刻まれたのだ。

これに対し本作品は、あまりに演出過少で、波がなく淡々と話が進む。思い返してみると、特に引っかかるのは、たびたび登場するビデオカメラの監視映像と、真上から見た館の見取り図、それに大きな鏡。いかにも「ここにいない誰か」を推測させる思わせぶりな見せ方だ。視聴者が原作で体験した騙される快感を奪っていると言っても過言ではない。

ウクライナ戦争をどう終わらせるか

 

著者は、NHKから研究者へ転じた異色の経歴。岩波新書だから、ともすれば反戦色の強い理想主義的な内容かと警戒した。しかし、思いの外真っ当な本だった。

プーチンに敗戦はありえない。一方で、ウクライナも領土割譲はありえない。この状況下でとりうる選択肢は、2023年3月の停戦ラインと著者は言う。私も読んでいて、確かにそれしかないか…最悪よりはましかと納得した。しかし、それから1年以上経過した2024年5月現在、その停戦交渉に進展がない。著者の案は、残念ながら実現可能性が低いということなのだろう…。

ウクライナ侵攻とグローバル・サウス

 

著者を知ったのは、大学3回生のとき。確か『アフリカ政治論』とかいう講義だ。京大の川端という先生が教室で映してくれたNHKの報道番組の中で、アフリカにおける紛争の現場の様子を伝えていた人だ。あれから20年経って、別府さんはNHKのキャスターになっているが、あの報道番組の印象の通り、彼は現場第一でそのための苦労はものともしない。仕事とはいえ、ヨハネスブルグウクライナの戦地を往復するなど、ジャーナリストとしての責任感がなければ続くまい。

本書はアフリカ駐在経験者ならではの、「サウス」側の視点を踏まえた説得力のある内容。対露制裁において、「西側」が一丸となる一方で、グローバルサウスは必ずしも一枚岩ではないとの指摘だ。私は「えっなんで!?なんでロシアの味方するの!?」と戸惑ってしまう。が、各国には各国の思惑がある。ロシアに味方することが自国の利益になる国もある。そう諭された。

成瀬は信じた道をいく

 

成瀬あかりは、相変わらず強く、賢く、たくましい。平和堂のエプロンを着た無表情の彼女の姿に、私はプッと吹き出した。そんな彼女に私はまたしても惚れてしまう。

スラムダンク

 

漫画を読んで、身体が震えた。ぶるぶると。こんな経験は生まれて初めてだ。

それは20巻、山王工業戦の最終盤。ゴリが泣いたり、花道が背中に違和感を覚えたり、流川がパスを出すようになったり、それだけでもすでに感動と興奮で目が潤み、心拍が速くなっている。そこへ私が一番感動したのは、花道がボールへ身体を投げ出して拾い、流川へパスした場面。

花道が、流川に…!

既にセリフはない。漫画なのにセリフがない。なのに、選手たちの声と、歓声と、キュキュキュという小気味よいバッシュの音が脳内に響く。なんという感覚。

30年遅れのスラムダンク。私にとっては唯一無二、空前絶後の特別な読書体験となった。この年だから、ここまで感動できたのかもしれない。本当に素晴らしかった。ありがとうございます井上雄彦先生。

成瀬は天下を取りにいく

 

2024本屋大賞。以前から題名と表紙のイラストが気にはなっていた。眼力のある女の子だ。この子が野球を始めて、プロ野球を目指す話なのかな、などと私は想像した。本屋大賞受賞を知り、どんな小説か知らないまま、出張先の金沢の書店で購入したのが本書である。

読み始めて10分ほど。止まらなかった。主人公成瀬あかりの意志の強さ、圧倒的な行動力にまんまと魅了されてゆく。惚れてしまう。自信がある上に、努力もする。なんでも実行してみせる。なのに、不快感はまったくない。こんな清々しいキャラクターには初めて出会った。彼女のセリフは、いつしか種崎敦美さんのフリーレンの声で脳内再生されるようになった。

くどくならない程度に織り込まれた滋賀ネタも絶妙だ。どれも実在する本物で、解像度が高い。と言っても私にはほとんどわからないのだが、地元民なら声を出して笑ってしまうだろう。私は大津市出身の知り合いに本書を薦めた。その方からの感想が楽しみだ。

 

安全保障の国際政治学

 

焦りと傲りという副題が秀逸。

焦りとは、挑戦国、被抑止国は抑止国の威嚇や軍事力の整備を過大評価した結果、誤った判断に陥りやすいという意味である。

では傲りとは。これは、強国、大国が自らの力を過信したり、敵国の能力や耐える力を過小評価した結果、失敗に至るという意味である。

なるほど。焦りと傲り、この2つのワードで抑止の困難さを巧みに説明している。本書も学生のうちに読んでおくべき基本書である。