本・ゲ・旅

歴史や政治を中心に本の要約を紹介します。たまにゲームレビューも。

スラムダンク

 

漫画を読んで、身体が震えた。ぶるぶると。こんな経験は生まれて初めてだ。

それは20巻、山王工業戦の最終盤。ゴリが泣いたり、花道が背中に違和感を覚えたり、流川がパスを出すようになったり、それだけでもすでに感動と興奮で目が潤み、心拍が速くなっている。そこへ私が一番感動したのは、花道がボールへ身体を投げ出して拾い、流川へパスした場面。

花道が、流川に…!

既にセリフはない。漫画なのにセリフがない。なのに、選手たちの声と、歓声と、キュキュキュという小気味よいバッシュの音が脳内に響く。なんという感覚。

30年遅れのスラムダンク。私にとっては唯一無二、空前絶後の特別な読書体験となった。この年だから、ここまで感動できたのかもしれない。本当に素晴らしかった。ありがとうございます井上雄彦先生。

成瀬は天下を取りにいく

 

2024本屋大賞。以前から題名と表紙のイラストが気にはなっていた。眼力のある女の子だ。この子が野球を始めて、プロ野球を目指す話なのかな、などと私は想像した。本屋大賞受賞を知り、どんな小説か知らないまま、出張先の金沢の書店で購入したのが本書である。

読み始めて10分ほど。止まらなかった。主人公成瀬あかりの意志の強さ、圧倒的な行動力にまんまと魅了されてゆく。惚れてしまう。自信がある上に、努力もする。なんでも実行してみせる。なのに、不快感はまったくない。こんな清々しいキャラクターには初めて出会った。彼女のセリフは、いつしか種崎敦美さんのフリーレンの声で脳内再生されるようになった。

くどくならない程度に織り込まれた滋賀ネタも絶妙だ。どれも実在する本物で、解像度が高い。と言っても私にはほとんどわからないのだが、地元民なら声を出して笑ってしまうだろう。私は大津市出身の知り合いに本書を薦めた。その方からの感想が楽しみだ。

 

安全保障の国際政治学

 

焦りと傲りという副題が秀逸。

焦りとは、挑戦国、被抑止国は抑止国の威嚇や軍事力の整備を過大評価した結果、誤った判断に陥りやすいという意味である。

では傲りとは。これは、強国、大国が自らの力を過信したり、敵国の能力や耐える力を過小評価した結果、失敗に至るという意味である。

なるほど。焦りと傲り、この2つのワードで抑止の困難さを巧みに説明している。本書も学生のうちに読んでおくべき基本書である。

日本政治思想史

 

私は本書をAmazonの『ほしいものリスト』に突っ込んで、もう5年は経ったと思われる。だいぶ前から、読みたい、欲しいと思っていたのだ。しかしながら、本書はちょっと期待外れだった。私の興味関心とはズレていたのである。

そのズレは、Amazonの以下のカスタマーレビューが代弁してくれていた。特に共感した箇所を太字としておく。

一言での感想:“17〜19世紀の日本政治思想史、ではない”

本書は趣味として読むには面白かったのですが、下に書く7点が、スタンダードな学術書を期待していたわたしの、本書に対する評価を大きく落としています。
・学術上の型である、“序論・本論・結論(introduction, body, conclusion)”に従って論が展開されていない

・モデルやセオリーといった手法を押さえておらず、修士課程の参考文献としては使えない
・学術上の価値としては文庫本レベルなので、単行本としても比較して高価な部類に入る本書の価格はreasonableではない
・スタンダードな政治思想史の書かれ方ではなく、分野としては、社会学から見た近世の思想展開の概説に近い
・一部、ほぼ確定とされる有力な日本史の定説から大きく外れた論を、自身の論の展開に用いており、当該部分の事実の描写が不正確である
・所々、史料の読み違いがあり、当該部分の論の展開や歴史、当時の政治の在り方に対する認識がおかしい
・著者の遊び心が現れている言が随所に盛り込まれているのだが、ハッとさせられるものがある一方で、歪んだ歴史観を感じる箇所も少なくない

わたしの本書に対する総評としては、失礼ながら、「著者は思想史から歴史を観ており、政治史の方にはあまり明るくないのではないか」といったものです。
以上の点を踏まえて、“東京大学出版会が出す17〜19世紀の日本政治思想史の本”としては、不十分な内容だと思います。
東京大学の定年退職記念出版と思われますが、退職記念出版の学術本のご多分に漏れず、著者の意気込みが空回りしている感、若しくは逆に、やっつけ仕事で業績をまとめた感、は否めません。つまり、本書の内容が、純粋に学術上のoutputとして構成されたものだとは思えません。
著者は儒学に明るいようですので、もう少し的を絞って、『江戸時代における儒学とその周辺の展開 ー日本近世政治思想史の一視点ー』とでもすれば、非常に面白い本になったのではないでしょうか。
講談社学術文庫か、ちくま新書あたりで上下巻組で出ていれば、値段や出版物のとしての狙いに当たったのではないかと思います。
それを踏まえて、本書のわたしが考える妥当な価格を1,800円としました。
内容は、ひどいとまでは言いませんが、わたしの知的好奇心を満足させるものではありませんでした。
星ひとつでないのは、“趣味として読む副読本としては面白い”からです。

中東政治入門

 

初学者に適した最良の入門書である。各章のはじめに「なぜ○○なのか?」と問いを提示する点、その問いに対する解説が丁寧な点、最後に章のまとめがある点、いずれをとっても良心的で親切だ。

第1章 国家 なぜ中東諸国は生まれたのか

  • 植民地国家としての経験と独立が共通点である。
  • 人工性の濃淡によりそれぞれの中東諸国の姿がある。

第2章 独裁 なぜ民主化が進まないのか

  • 権威主義体制は、体制側にとって合理的な戦略である。

第3章 紛争 なぜ戦争や内戦が起こるのか

  • 戦争は起こりにくくなっているが、内戦の件数は増えている。
  • 宗教や民族よりも経済発展のレベルの影響が大きい。

第4章 石油 なぜ経済発展がうまくいかないのか

  • 産油国は国家が石油生産を独占し富を国民に分配してきたが、それが権威主義体制の維持と『石油の呪い』を生んだ。
  • 産油国社会主義的な再分配や福祉の充実を過度に重視し、やがて行き詰まった。

第5章 宗教 なぜ世俗化が進まないのか

  • イスラームを理由とする見方には説得力がない。
  • 宗派対立が政治を動かすのではなく、政治が宗派対立を生む。
  •  

長谷川ヤメロ

グランパスが本当にひどい。もちろん、好調なクラブでもなぜか勝てない時期があったりするものだ。しかし、グランパスは度を越している。何しろ昨夏以降の成績がこれだ。
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周知のとおり、2024シーズンは0-3, 0-1で開幕2連敗である。開幕連敗は22年ぶりだそうだ。

2023年8月以降の成績

  • 16戦3勝5分8敗11得点20失点
  • 勝率0.1875
  • 平均勝ち点0.875
  • 平均得点0.6875

こんな体たらくなのに、私は他の予定や都合をすべて排除し、DAZNで毎試合観戦。しかも、何試合かは豊田スタジアムまで片道2時間かけて移動し、現地観戦しているのだ。この程度の関与で済んでいる私でさえストレスが溜まって仕方がないのに、これを隔週で繰り返して苦行に耐えているシーチケ所有者にはただただ頭が下がるばかりだ。

それでも面白いサッカーをしていれば期待が持てるが、昨夏以降の名古屋はサッカーの質もJ1最低レベルだ。ボールが収まらない、中盤でボールを奪えない、守備が崩壊している、などおよそ勝てないクラブの共通点を確実に網羅している。

 

2023シーズン以降に移籍・退団した選手

  • 長澤、マテウス
  • 中谷、丸山、前田、藤井、貴田

光る君へ


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特に期待せず観始めたドラマが面白いと、いっそうそのドラマに興味や愛着が湧く。一昨年の『鎌倉殿』から1年空いて、今年は『光る君へ』沼にずぶずぶと浸かりつつある。

吉高由里子のビジュアルを全面に押し出した絵から、雅な平安貴族の生活をこれでもかと美しく色鮮やかに描写するのかなと思いきや、半沢直樹もかくやの権謀術数、陽キャ陰キャが入り交じるカオス女子会など、第一印象とは裏腹に本作は魑魅魍魎の跋扈する伏魔殿の様相である。
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大河ドラマを視聴した晩の私の楽しみは、SNSクラスター達の解説や感想を読むことである。

「今回は源氏物語の○○をモチーフにしていたのか」

「えっ、右大臣の病は演技ってこと!?」

「あぁここに三角関係が隠れているわけね…」

など、自分にない知識、観点でドラマを更に楽しむことができている。私はその片隅で耳を傾けひとりウンウンと頷いている、一介の市民である。まさに大河ドラマファンによるゆるやかなコミュニティだ。SNSはこういう居心地の良い空間であってほしい。