本・ゲ・旅

歴史や政治を中心に本の要約を紹介します。たまにゲームレビューも。

日本政治思想史

 

私は本書をAmazonの『ほしいものリスト』に突っ込んで、もう5年は経ったと思われる。だいぶ前から、読みたい、欲しいと思っていたのだ。しかしながら、本書はちょっと期待外れだった。私の興味関心とはズレていたのである。

そのズレは、Amazonの以下のカスタマーレビューが代弁してくれていた。特に共感した箇所を太字としておく。

一言での感想:“17〜19世紀の日本政治思想史、ではない”

本書は趣味として読むには面白かったのですが、下に書く7点が、スタンダードな学術書を期待していたわたしの、本書に対する評価を大きく落としています。
・学術上の型である、“序論・本論・結論(introduction, body, conclusion)”に従って論が展開されていない

・モデルやセオリーといった手法を押さえておらず、修士課程の参考文献としては使えない
・学術上の価値としては文庫本レベルなので、単行本としても比較して高価な部類に入る本書の価格はreasonableではない
・スタンダードな政治思想史の書かれ方ではなく、分野としては、社会学から見た近世の思想展開の概説に近い
・一部、ほぼ確定とされる有力な日本史の定説から大きく外れた論を、自身の論の展開に用いており、当該部分の事実の描写が不正確である
・所々、史料の読み違いがあり、当該部分の論の展開や歴史、当時の政治の在り方に対する認識がおかしい
・著者の遊び心が現れている言が随所に盛り込まれているのだが、ハッとさせられるものがある一方で、歪んだ歴史観を感じる箇所も少なくない

わたしの本書に対する総評としては、失礼ながら、「著者は思想史から歴史を観ており、政治史の方にはあまり明るくないのではないか」といったものです。
以上の点を踏まえて、“東京大学出版会が出す17〜19世紀の日本政治思想史の本”としては、不十分な内容だと思います。
東京大学の定年退職記念出版と思われますが、退職記念出版の学術本のご多分に漏れず、著者の意気込みが空回りしている感、若しくは逆に、やっつけ仕事で業績をまとめた感、は否めません。つまり、本書の内容が、純粋に学術上のoutputとして構成されたものだとは思えません。
著者は儒学に明るいようですので、もう少し的を絞って、『江戸時代における儒学とその周辺の展開 ー日本近世政治思想史の一視点ー』とでもすれば、非常に面白い本になったのではないでしょうか。
講談社学術文庫か、ちくま新書あたりで上下巻組で出ていれば、値段や出版物のとしての狙いに当たったのではないかと思います。
それを踏まえて、本書のわたしが考える妥当な価格を1,800円としました。
内容は、ひどいとまでは言いませんが、わたしの知的好奇心を満足させるものではありませんでした。
星ひとつでないのは、“趣味として読む副読本としては面白い”からです。