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歴史や政治を中心に本の要約を紹介します。たまにゲームレビューも。

文明が衰亡するとき

 

文明が衰亡するとき (新潮選書)

文明が衰亡するとき (新潮選書)

 

どんな本?

  • 著者曰く「この書物は、昔から書きたいと思ってきた本」(あとがき)です。
  • ローマ、ヴェネツィア共和国、オランダの発展と衰亡の歴史を丁寧に読み解き、それを踏まえてアメリカと日本の今後を論じています。

著者は?

高坂正堯

Good point

  • 「世界地図の中で考える」が歴史を俯瞰した文明論であったのに対し、こちらは「文明」とタイトルにはありますが現代のアメリカと日本についての評論が中心です。
  • ヴェネツィア共和国とオランダを、通商国家であり島国であるとの点で、日本との相似で捉えている点は日本人の感覚になじみやすいと思います。
  • 以下は日本人にとって耳の痛い指摘です。
  • ヴェネツィアやオランダは、好適な状況に恵まれて、つまり幸運に支えられて、意外にも成功したというべきである。
  • 幸運に助けられた目ざましい成功と、どうしても克服できない脆弱性、その二つが通商国家の運命である。
  • 通商国家は戦争をしないか、あるいは避けようとする。しかし、平和を作るための崇高な努力もしない。それはただ、より強力な国々が作り出す国際関係を利用する。
  • 変化への対応の弱まりは日本の衰頽ということになる。

どんな人におすすめ?

日本のこれからについて、歴史を材料に考えたい人

私見・疑問等

  • ローマ、ヴェネツィア共和国、オランダの発展と衰亡の歴史を丁寧に読み解いている分、しばしば詳細すぎて退屈しました。私は、「要するに何なのか」と結論を急いでしまいました。
  • この本にも多くの名言・箴言が散りばめられており、高坂正堯氏の知性とセンスを通じて歴史からの学びを得ることができます。
  • 歴史の深い知識と、それを俯瞰する知性、それらを味わいのある言葉に変換するセンス。この3つのどれが欠けても、その人の書く文章は嘘くさいものになってしまいます。高坂正堯は、この3つを類稀な水準で兼ね備えた国際政治学者だったのだと再認識しました。

メモ

  • 権力の座にある人間はだれかに打倒されないだろうかという懸念を持っている
  • ローマ衰亡論は、それが書かれた時代の暗黒面、あるいは懸念を以て、ローマ衰亡の基本的な原因としているのである
  • 人間は没落が不可避であると考えながら、同時に他方では、没落は避けられるのではないかと希望する。その矛盾した態度に注目することが、衰亡論から学ぶときの要諦であろう
  • 二十年先がよくわからないときに、親であり、教師であるのは嫌なことだと私はときどき思う
  • しかし、あきらめは答えにならないし、人間はそうしないであろう
  • 運命は無常でかつ急変するものであるが、それに対して堂々と立ち向かうというのが、衰亡論の与えてくれる歴史観なのである
  • 幸運に臨んでは慎み深く、他人の不運からは教訓を学んで、つねに最善をつくすという態度が大切なのである
  • 「豊かな自然を守れ」と声高に言う人ほど、大都会から動こうとしない
  • 基本的に、ヴェネツィア人は疲れてしまったと言えるであろう
  • 変化を恐れず変化について行く能力の衰えが原因であったと言わなくてはならない。