どんな本?
著者は?
1934年京都府生まれ。京都大学法学部教授。専門は国際政治学 ・ヨーロッパ外交史。1996年逝去。
Good point
- 冒頭、この本はタスマニア島の滞在記、見聞録、あるいは軽めの エッセイなのかなと思わせます。しかし、タスマニア人の滅亡の原因から話はいつしか文明論に移ります。
- そして、人間と異文明との接触を、人体が新しい微生物と遭遇するときとの相似で解きます。
- この展開の巧みさは、 本当にお見事というほかありません。
- 評論の対象はこの後、アメリカ、ベトナム戦争、インド統治、インドネシア9・30事件、最後に現代社会と続くのですが、これらは一見バラバラなようで、実はオムニバス形式の小説のように一つ に繋がっていることに気が付いたとき、私は高坂正堯氏の書き手としての優れた才能に目眩すら覚えました。
- 加えて、これらを弱冠34歳で書き上げた知性にも、驚嘆せずにはいられません。
どんな人におすすめ?
- 国際政治を学ぶ醍醐味に触れたい人(進学先を検討する高校生、 政治学や国際関係学をこれから学ぶ大学生など)
- 本物の知性に触れたい人
- 文明論に関心のある人
私見
- 高坂正堯氏は、素人が読んで面白く、しかも説得力のある評論を書ける国際政治学者でした。私はこの本を再読して、氏の早逝を惜しむ声の多さと大きさを改めて理解しました。
- 新潮選書には高坂正堯氏の著作が4つあります。他の3作品は書 店で容易に手に入りましたが、この本だけは増刷されなかったのか 、どこの大型書店にも置いていませんでした。私はそのたびに肩を 落としました。2008年、私はやむなくAmazonマーケットプレイスで1,200円にて中古本を購入しました。ようやく手に入れた本の黴臭ささえも嬉しかったことを今でも覚えています。
- 2016年、本作品は著者没後20年を記念して改版発行されましたので、現在は容易に新品を購入することができます。
メモ
箴言としたい一文を私なりに厳選しご紹介します。
- 善悪の関係は複雑に入り組んでいて、どれが全でどれが悪かを言うことは難しい
- 文明には限界点が存在する
- 世界は狭いようで広く、そして複雑なのである
- 人間にとって生活の基礎に横たわる価値体系を変更するのはきわめて辛いことである
- 言葉は必要で有用だが危険である
- われわれが知っていることのなかで、深い知識は少なく、大体のところ『イメージ』にすぎない
- 文明は人々の希望でもあり、同時に負担でもある