きっかけ
先に読んだ「興亡の世界史」があまりに面白かったので、他のも読んでみたいと探した中で、いちばん低価格で高評価だったので本書を購入しました。
著者は?
- 小杉泰
- 1953年北海道生まれ。1983年、エジプト国立アズハル大学イスラーム学部卒業。1998年、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究科教授。2019年より立命館大学立命館アジア・日本研究機構教授。
- 1994年、『現代中東とイスラーム政治』でサントリー学芸賞受賞。
どんな本?
「はじめに」より
- 本書は、イスラームについて、その宗教・社会・国家の原理を考察しようとするものである。
- 本書が扱うのは、西暦7〜10世紀である。
- イスラームの政教一元論の背景に、どのような社会観、世界観があるかをじっくりと考えてみたい。
感想
文章が事実や説明の羅列で、それぞれに繋がりや解説(なぜなら〜だから等)がなく、内容がすっと頭に入ってこないところが多々あります。例えば、P. 344
本書で描いたところからも明らかなように、急進的な民族主義が衰えた後にイスラーム急進派が登場した。民族主義や社会主義に立脚する闘争組織が敗北した後に、イスラーム的な闘争組織や抵抗運動が誕生した。言いかえれば、原因や社会的状況はさまざまでも、闘争の種は初めからそこにあった。イスラーム復興の時代になったから、そのような闘争組織は、ジハードを唱えるようになったのである。40年前の中東であれば、「人民解放闘争」を呼号したであろう人々は、今日、「ジハードに立て」と言うであろう。
この段落で著者が一番言いたいことは何でしょうか。
私が大学受験勉強で身につけた「評論文の読み方」は、接続詞に注目せよというものでした。特に、「しかし」や「つまり」の後に続く文章は著者の主張の肝だから、よくよく注意しなければならないといいます。文系ながら国語が苦手だった私は、この初歩的な読解スキルだけでなんとか大学受験を乗り切ったようなものです。
私の読解力はその程度なので、論理展開が整理されたわかりやすい文章でないと、私は内容を十分に理解できません。
先の引用の例で言うと、私が注目するのは「言いかえれば」の後に続く箇所です。しかし、「闘争の種は初めからそこにあった」というのがしっくりきません。
- 「闘争の種」というのは、イスラーム的な闘争組織や抵抗運動が主張する問題を指すのか?
- 「初めからそこにあった」ということは、イスラーム急進派がある日突然現れたのではなく、彼らが主張する問題は昔から存在していたが社会に認知されていなかったということ?
というように、私は「ん?」「え?」と首を傾げ、文章を行ったり来たりして言葉を補いながら、注意深く読まなければなりませんでした。
私が4回生の年だったでしょうか。政治学科の特殊連続講義で、実は本書の著者である小杉教授の講義をじかに聴く機会がありました。ちょうど911やイラク戦争でイスラームに対する関心が高まった時期でしたし、京都大学の高名な先生が来てくれるというので、私は大変わくわくしていました。しかしその説明は、残念ながら本書と同様、いまいち腹落ちしないものでした。そこで私は、いかに優れた知見を有していても、それが相手に理解されなければ意味がないことを再認識したのでした。
メモ
- 「右手に剣、左手にコーラン」は誤ったイメージである。
- ジハードをテロと関連付ける単純化は、イスラームの誤解を助長するのみならず、今日の国際社会の実態的な理解をも妨げる。
- イスラームでは、軍事力は融和のためにこそ容認されることが強調される。
- ムスリムが命を懸けて戦うようになった理由について、著者は「魂の錬金術」という比喩を用いている。これは、ムハンマドがイスラームを説く中で、錬金術が卑金属を貴金属に変えるように、人々の心を部族主義からイスラームへと変えていった、という意味である。
- イスラーム帝国の基盤は、包摂の原理であった。
- ジハードは「イスラームに立脚する社会構築」「公正な社会を建設するための奮闘努力」が第一義で、戦いはその手段の一つとみなされていた。
- 国家と政治におけるイスラームの薄い部分に、イスラームを掲げる急進派が浸透する。
- イスラーム世界と国際社会が有意義な対話と問題解決に臨むためには、ジハードを本来の意味で理解することと、問題解決のための対話のアジェンダを用意することが必要である。