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イスラム飲酒紀行

 

本の紹介

準アル中を自認するフリーライターが、イスラーム世界で酒を楽しむべく格闘・奮闘するノンフィクション。

心を動かされたこと

まず、自分と同じ酒好きが存在することに安心した。というのも、近年酒好きは肩身が狭いからである。「お酒が好きなんです」と申告すると、「私はあんまり…」「全然飲まないです」と苦笑する人が増えた気がして、寂しい。まれに「まぁでも、飲み過ぎには気をつけてね」などと温かいアドバイスを頂戴するが、正直酒飲みには余計なお世話である。その点、休肝日のないこの著者は酒で頭がいっぱいので、「飲み過ぎには…」などとは絶対に言わないだろう。私はこういう人とお酒を飲みたい。

さて本文であるが、文中、どのページを開いても「酒」の文字が踊る。四六時中酒のことばかり考えている証である。どこへ行っても、誰といても、酒、酒、酒。こういうのを目の当たりにすると、酒以外のことに神経を遣い、くよくよ悩む自分の未熟さを痛感する。私も余計なことで悩まないよう、酒のことばかり考えるようにしよう。

冒頭、空港で他人の目を気にしながら努力して飲酒するも、噴き出してしまって結局美味しく飲めないのは滑稽であるが、共感もした。私も出発時刻が迫る中でビールを胃に流し込んだことがある。喉が渇いていたわけではない。単に空港という非日常でビールを飲みたかっただけなのだ。

章末の写真が答え合わせのようで興味深い。「学生3人組はこんな顔だったか」「オアシス・バーは想像どおりだ!」てな具合である。

イスラーム世界での飲酒は、日本における未成年の飲酒のようなものとの喩えには膝を打った。ムスリムだって飲みたいのだ。私は酒飲みなら誰とでも仲良くなれそうな気がした。また、仏教こそが実は飲酒を厳禁としているとの指摘は、目から鱗。世の中、教科書だけでは学べない。勉強になるなぁ。

著者は紛争地域だろうと田舎町だろうと、酒を求めて努力の限りを尽くすのであるが、それを読んで私も似たようなものだとはっきり自覚した。というのも私は、旅行や出張に行くと、その土地の酒を飲まずにはおられないのだ。出張の際など、夕方になると「今日は何を飲もうかな」と気もそぞろである。とはいえ、著者ほど執念深く酒を探し回る気力はないから、せいぜい酒好きのレベルだ。「高野さんの酒への執念は本当に感心します」全読者がウンウンと頷いた。

この本を読んで、私は堂々と飲酒に励むことにした。著者の存在に励まされたからである。こんな準アル中でも暮らしていけるのだから、自分だって大丈夫だろうという妙な自信を抱いたのである。