本・ゲ・旅

歴史や政治を中心に本の要約を紹介します。たまにゲームレビューも。

ウイグル・ジェノサイド

 

きっかけ

下川裕治シルクロード旅行記で、ウイグル人に対する嫌がらせの一端を初めて知った。これはもう少しちゃんと知っておかないと恥ずかしい。そんな危機感を抱いて書店やAmazonで本を探してみると、ウイグル人の書いたノンフィクションが数点あった。こういう本があること自体も全然知らなかった。どれでもいいから、とにかく1冊読んでみようと思った。

感想

嫌がらせどころの話ではなかった。人権侵害どころではない。迫害、虐殺、いや民族浄化か。21世紀に、隣国が公然と国家による犯罪を推進している。北の隣国は武力侵攻を公然とやってのけるし、そういう国が自国と隣り合っていることの恐怖を再認識した。

私は中国出張を通じて、中国に親しみを抱いてきたのだ。交通インフラが物凄い勢いで整備され、街並みが整い、IT活用が進む。それが上からの投資による強引な開発とはいえ、国がどんどん成長していく。衰退する日本にいるが故に、発展する中国が羨ましかったのかもしれない。

しかし、その好意的な感情は私から消え去り、代わって中国に対する嫌悪感が急速に高まっている。人権とか尊厳とかいう難しい言葉を持ち出すまでもない。なんで普通のウイグル人の、普通の暮らしを認めることができないのか。戸惑いと義憤。

一方で、国民国家民族自決という19世紀以来の国際問題も思い起こさずにはいられない。中国の歴史において、しばしば北方民族の侵入により王朝が滅びたことも思い出される。このあたりは、普通の日本人にはピンとこない感覚ではある。中国の支配層は、中国が強国に成長すればするほど、自分を脅かす存在に過敏になるのかもしれない。

歴史に学ぶことは大切である。歴史には、例えばオスマン帝国のように寛容で友好的な統治もあった。しかし、中国共産党が歴史に学んだ結果は、民族浄化である。それを、決して許されない蛮行だなどと批判することも、必要ではある。とはいえ、著者曰く、話し合って解決することはできない、話が共産党には通じないのだ。本書には具体的な解決案の提示はないが、それだけウイグル人のおかれた状況が絶望的なのである。