本・ゲ・旅

歴史や政治を中心に本の要約を紹介します。たまにゲームレビューも。

ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人

 

2024/1/2にイオンの未来屋書店で購入し、丸1日で読了。相変わらずの、そして流石の読みやすさである。私が真相を知りたくなり、細部を流し読みしてしまうのもいつものことである。

今作はこの20年東野圭吾が追求してきたホワイダニットではなく、フーダニットがメイン。元中学教師の父を殺害したのは誰か?娘とその叔父が追う話である。この叔父がマジシャンという設定で、一瞬で他人の持ち物をくすねたり、隠しカメラを仕込んだりする曲者なのだが、私はマジシャンというよりは豪胆な加賀刑事という印象を持った。人間の心理や身体反応を巧みに活用した会話術が、これまでの東野圭吾作品に登場した有能な警察に似ていると感じたからだ。文庫の帯には『謎解きのためなら手段を選ばず』と謳っている。私はマジシャンに扮した叔父が犯罪か犯罪スレスレのあくどいことをやって真相に迫ることを期待していたので、真っ当な手段にむしろ拍子抜けしたほどだ。《黒い魔術師》の呼称も誇張…というか、作中にそんな呼称が登場したっけ?

さて本作はコロナ禍を背景に物語が進む。緊急事態宣言、休業、外出自粛など、嫌になるほど目にした単語が、あの頃の萎縮した毎日を想起させる。が、舞台が2021年(と思われる)にしては変だなと違和感を覚える箇所があった。例えば、コロナがすでに収束に向かっているかのような状況描写である。が、その理由は本作を最後まで読み終えたところで判明した。本作の単行本は2020年11月に刊行されたのだ。執筆時点では2020年夏だから、コロナがこの先拡大するのか、いつ収束するのか、ワクチン開発はどうなるのか、全く先行き不透明で何をするにも不安が先行していたあの時期だ。f:id:bookrecords:20240103131546j:imageであれば、コロナ禍の初期に想像を交えながら小説を仕上げた東野圭吾はこれまた流石。コロナ禍が一年で収束することを願い、またそうなる前提で書いたのかもしれない。2020年夏の時点では、この先コロナウイルスが変異を繰り返して人類を悩ませ続け、私たちは永遠にこれと付き合っていかなければならないのでは、とすら悲観したことも思い出した。

マジシャンの叔父の小細工自体は読んでいて面白いので、今度は長編ではなく短編集で、ガンガン人を欺いて欲しい。