きっかけ
たまには新刊でアメリカ大統領選挙について勉強し直そうと思い立ち、購入しました。
著者は?
感想
- 久保氏の執筆分は、意外にも堅苦しさがなく、非常に読みやすい。もちろん、ただ単に大統領選挙のしくみを解説するだけでなく、政治学の観点から大統領選挙の意味や背景や経緯を具体的に補っているため、「なるほど!」と納得感を持ちながらスルスルっと読み進めることができました。政治のリニューアルとはなかなかいい得て妙。私の知識は、大学で学んだ2004年頃で止まったままでしたが、本書で一気にアップデートできた感があります。
- 金成氏の執筆分は、新聞記者による現地ルポだけあって、これまた非常に読みやすく面白い。2016年のヒラリー対トランプの熱狂と戸惑いが脳裏に蘇り、興奮しました。新聞自体はオワコンと言われて久しいけれど、このようにして一つのテーマを読ませる能力にかけては、さすが新聞記者と一目置くものです。
メモ
- アメリカは200年以上平和的な政権交代を成し遂げてきた。
- 19世紀末頃まで、民主党に投票する有権者と共和党に投票する有権者とでは投票用紙の色が異なっていた。また当時は有権者名簿が存在しなかったため、投票率がしばしば100%を超えた。
- 1830年代にはアメリカ合衆国全土で青年白人男子の普通選挙が実現した。
- アメリカの官僚制においては、政策変更あるいは政策転換について、積極的な体質を持つ。なぜなら、前政権による誤りを国民とメディアに公開し、自分たちがいかに画期的な改善を行っているかをアピールすることが、大きな政治的得点になるからである。
- 1893年に起きた深刻な景気後退により、多くの国民に民主党は不景気の党として心に刻み込まれてしまった。
- 1929年の大恐慌が、共和党優位の政治体制を打ち砕いた。共和党はニューディールの人気の前に、ニューディールを正面から否定することができなかった。
- ベトナム戦争と悪化した経済状況、そして南部における黒人差別問題が、民主党多数体制を覆すことになった。
- 1964年にジョンソン政権と民主党多数議会が公民権法を可決した結果、南部白人が反発し、共和党支持に大きく傾いた。南部は、1980年以降は基本的に共和党の支持基盤となった。
- 1980年代に、民主党と共和党は、政府の規模、経済政策、増税か減税か、外交安全保障政策、宗教、銃所持など、広範にして多数の問題で対極的な立場をとるようになった。両党でイデオロギーの純化が進み、対立が固定的となったのである。
- 1960年代から90年代にかけて、共和党は南部で勢力を拡大し、西部山岳地帯でも党勢を伸ばした。逆に、本来の地盤である北東部において決定的に衰退した。
- アメリカ大統領選の候補になるためには、①出生によりアメリカの市民である、②35歳以上、③14年以上アメリカに住んだことがある、という3条件をすべて満たす必要がある。
- 規定に背く選挙人は「不実な選挙人(faithless elector)」と呼ばれている。
- それぞれの州の選挙人の数は、州選出の下院議員と上院議員の数の合計に等しい。
- トランプ大統領は、公職も軍歴もない初めての大統領である。
- 大統領の年収は40万ドル。
- ネガティブ広告は当然の手段となっている。2016年大統領選の直前5日間のテレビCMのうち、候補者の良い面を伝えるCMは8%だった。
- アメリカの保守は「小さな政府」「伝統的な価値観」「軍事力」を、リベラルは「大きな政府」「多様性」「外交」を重視する。
- ジョン・ロックが説くように、生命と財産を守るために、人民の合意に基づいて政府が組織された。
- アメリカでは自由主義が建国当初から圧倒的優位に立った。
- アメリカでは努力と能力さえあれば誰でも成功できると観念され、結果的に政府による福祉政策は立ち遅れた。それが大きく変わったのは、大恐慌のさなかに打ち出されたニューディール政策においてであった。
- アメリカでは大きな政府を支持する勢力がリベラルとなり、小さな政府を意味していたヨーロッパと意味内容が逆転することになった。
- アメリカでは、過去20年間ほどで、民主党が都市部での優位を着実に広げ、共和党が地方での優位を固めつつある。
- 黒人は、南北戦争のさなか1863年に奴隷解放宣言をしたリンカン大統領の共和党を長く支持してきたが、ジョンソン大統領のもとで公民権法と投票権法が成立すると、民主党支持に移った。
- ヒスパニック(ラティーノ)は、今では黒人を抜いて、アメリカで最大のマイノリティー集団になっている。
- ヒスパニックのおよそ6〜7割が、多様性の価値を掲げる民主党候補に投票してきた。
- 白人の低学歴男性はトランプとそれを支える共和党に強く惹かれ、逆に白人高学歴女性はトランプ的価値観やレトリックに強く反発して民主党多数議会を希望している。