本・ゲ・旅

歴史や政治を中心に本の要約を紹介します。たまにゲームレビューも。

憲法 第4版

 

どんな本?

今日の社会・政治状況の変化は益々激しく、憲法学もこれらへの対応を迫られている。一方、法学教育は本格的なロースクール時代を迎えているが、法律実務家能力習得の前提として、体系的なテキストによる学習は必要不可欠である。現代憲法学に指針を示し、これに取り組もうとする人々におくる本格的体系書、最新版。

感想 

  • 「芦部憲法は簡潔な解説に定評がある一方で、初学者には不親切」との評判ですが、私もまったく同感。芦部憲法はド定番と聞いていたのに、芦部憲法を読んでも全然わかった気になれないじゃんと憤り、素人向けに懇切丁寧に解説してくれる易しい教科書を長年にわたって探求しておりました。
  • そこで、本体1円+送料300円で買い求めたのが本書。旧版とはいえ、教科書にふさわしいボリュームで、これが1円とはお買い得感がすごい。
  • 文字がびっしり詰まっていて教科書然としていますが、「A説は……。B説は……。」と学説を一つ一つ丁寧に紹介しています。もちろん丁寧かどうかは相対的、主観的な評価によりますが、今まで私が読んだ数少ない法学書の中では大変多くの文字数を割いて記述していると思います。
  • 私が憲法の教科書を買い求めた理由。それは、憲法そのものを学ぶためだけではなく、物事の考え方そのものを知りたいという欲求があったからです。より多くの人を説得するためには、どのような論理で、何を根拠に、どのような言葉を用いると良いのか。それが私の関心事でした。
  • が、私にはどうも憲法学が訓詁学(主に儒学の下位分野で、儒教の経典に出てくる語句の意味を解釈・説明する行為)のように感じられます。例えば、「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴で」(憲法1条)に出てくる象徴という熟語について、本書では①社会心理的意味、②法的意味の2つに分類した上で、実に3ページ半にもわたってじっくり丁寧に説明しているのです。
  • 法というと、誰もが納得する切れ味の鋭いロジックで構成される人間の知性の結晶のように捉えていましたが、少なくとも憲法学は私の理解とちょっと違ったようです。
  • 本書を読んでいると、「裁判官や憲法学者はよくそんなことまで問題にするものだな」と感心します。例えば象徴天皇制に関わる「食糧メーデー事件」における不敬罪の存否、無罪か免訴かの議論や、そこから派生する不敬罪を正当化できるかという問い。
  • 法曹からすればそれこそが精密な議論であり、多様な観点で意見を戦わせることによって合理的な判断に至りより多くの人が納得できるということなのでしょうが、一世一元制の合憲性に至っては、法学に興味のない人からすれば、ほとんど難癖レベルの指摘ではないかと苦笑しました。
  • 第2章 日本憲法史の明治憲法に関する記述は、戦前の政治に対して極めて批判的です。およそ中立的・客観的とはいえず、学説を並列的に紹介するでもありません。おそらく執筆者(高見勝利・法政大学教授)の主義主張が滲み出ているのでしょう。政治学者による近代日本政治史の著書に触れてきた私には、大日本帝国憲法が悪い、帝国議会が悪い、軍部が悪いと戦前日本の欠点ばかり指摘し、「こうして、日本は、軍・官・民一致して天皇の名の下に、一路、米英等の戦争へと突き進んでいったのである。」と結ぶ主張に強い違和感を覚えます。
  • かつて、安保法制が議論となった際、憲法学者のほとんどが反対したのを想起しました。
  • 9条の解釈に至っては、武力行使および自衛戦争の双方を放棄したものと捉えるのが妥当、自衛隊違憲自衛隊の海外派遣も違憲とのこと。国際政治や安全保障の本から現実に即した議論に多く触れてきた私は唖然としました。ロシア―ウクライナ戦争を目の当たりにしてもなお、憲法学者は日本政府の指揮のもと自衛隊が自衛のために戦うことを違憲と唱えるのでしょうか。私はここに至って憲法学の議論が厭になってしまいました。ちなみに、これらを扱う第4章も高見勝利・法政大学教授の執筆でした。
  • Ⅱは統治機構篇。国会、内閣、裁判所についての解説ですが、説明が中心で、中学校の公民、高校の政治経済の教科書を再読しているような感覚。ハッと気付かされたり、考えさせられたりすることは、人権篇ほど多くありません。
  • この1ヶ月くらい、憲法学の書籍とじっくりのんびり向き合ってきました。その結果、私の憲法学に対する理解は深まりました。一時は憲法学って面白いなと前のめりにもなりました。しかし、「戦争」にかかわる記述で私の目は覚めました。言葉遊びのような解釈論をもてあそぶばかりで、現実理解を欠いた